100万人を破滅させた大銀行の犯罪
題名からして、物議を醸しだしそうな内容でどんなものか?と
読み始めた。
発行は2001年。 ちょうどバブルが弾けて銀行が貸し剥がしで
躍起になっている頃にリリースされた本書は
およそ12~14年前に起こった銀行の経営責任を検証するにはもってこいの内容。
事件や出来事は風化してしまいがちですが、
本書を読んで曇りがちな視点をしっかり養いたいと思います。
不良債権の処理を監督官庁や国会が容認し、国民を見殺しにした事は忘れるべからず。
第一章 罪なき金融被害者の「無間地獄」
最初の4行目から のけぞった。
野中政男さん(仮名)はまず、自分が自民党員であることを告げた。銀行にだまされたので、その解決を頼みに自民党に陳情に行ったが、
「そんな契約はしていない」とけんもほろろ。
藁にもすがる思いで野党各党を回ったが、「個人の問題だ」と冷たくあしらわれた。
最後は、断腸の思いで共産党の門を叩いた。共産党は大蔵委員の秘書が対応したが、政党が動くよりも、弁護士に相談したほうがよいと判断。その秘書から私(著者:椎名麻紗枝 弁護士)を紹介されたのだということだった。
まっとうな対応をしたくれたのは 唯一「共産党」 のみ。
他の政党はわれ関せずとばかりに追い払ったということですね。
まあ、銀行と結託してますから、当たり前か。。。
いよいよ本題に入るのはP26から。。
銀行が株投資に31億円を融資?
臨場感あふれる描写で、読み進めるうちになんとも言えない気持ちにさせられた。
くだんの 野中さんが東京銀行(三菱東京UFJ)から借り入れた金額は26億円! 金銭消費賃借契約書も6通!! おまけにワリトーを担保に手形貸し付けで5億円の融資をうけていたので、東京銀行(三菱東京UFJ)から借り入れた金額はTOTAL 31億円!!!にのぼる。。。。
金額もすごいが、金銭消費賃貸契約書の資金使途欄が
いずれも「有価証券投資」。。。。 いわば 博打にお金を31億も
銀行が個人へ融資したということね。。。
銀行は社会的公共性? が高い?はずではなかったのかしら。
このケースを追っていくと。。
当時銀行が設定していた返済に充てられる額は
「年収700万円以上1,000万円未満は、年収の35%以内、年収1,000万円以上は年収の40%」と設定している。
31億円の年間金利は、当時の金利6%、元金据え置きとしても、1億8,000万となる。
年収は、最低でも4億6,500万円。。。は必要。。。
孫正義クラスでないと設定できない条件だわ。。。。
ここまで、傷口が広がってしまった理由の一つに
東京銀行が株取引の損失を取り戻すために追加融資を進めたこと。
東京銀行は証券会社出身の課長を担当にして 第七証券と結託し、
87回もの株取引を行い回転売買だけで、第七証券は3,132万円の手数料を稼ぎだし、
東京銀行もこの間に2億円の金利を儲けた。 そして。。26億円は消えた。。。
融資したお金でしっかり利益は持ってく 銀行・証券。
恐ろしいね。。。
おまけに融資手続きにも問題あり。。。
融資を受けるにあたって作成した通帳を半年以上も銀行が保管し、「念書」も取らずにウィルフォロー扱いをおこない、やりたい放題。
当事者の野中さんは 銀行から送付されてきたひとまとめの白紙払い出し伝票に、銀行から指示されるまま、銀行印を押印して銀行の担当者に返送。
銀行はそれらの払い出し請求書に野中さんの名前と金額を書き入れて、出金したのち、証券会社に送金。 こんなところだけは 段取りいいね。
これって。。白紙委任状を銀行担当者に渡した事と同じ。 危険極まりない。。。裏を返すとそれだけ野中さんは銀行を信頼していたということですかね。
その後、この件はどんな決着を迎えたのか・・
銀行側も責任を認め、椎名弁護士の尽力で銀行と証券会社と野中さんの三者、イーブンの負担で和解となりそうであったが。。。決裂。
その後、東京銀行は三菱銀行との合併直前の96年2月に融資金26億円の
請求訴訟を起こし(身綺麗にして合併。当然かな。)。。。。野中さんはストレスから精神に変調をきたす。
投薬治療中に 2001年7月東京三菱銀行(三菱東京UFJ銀行)は野中さんの敗訴判決を待って、野中さんの自宅をはじめすべての不動産に競売をかけた。。。
つまり、野中さんの敗北。
あれ? この結末はどこかで 読んだような。。
そうそう。 マネー・ヘッタ・チャン ! 現実はこんな風に行われていたということだったんだ。。。
椎名弁護士は ここで日本の司法制度を嘆く。
日本ではこうした「借り手」が勝つことは、よほどの事がない限り難しいのだ。それに本来裁判は、「武器対等の原則」でなければならないのに、実際の裁判では、立証責任がどちらかにあるかが、決定的に重要だ。立証責任のある方が、その事項について裁判官に確信をもたせられないと、負けてしまう。 それに加えて、裁判官は、銀行を無批判に信頼する傾向にある。野中さんの証言と銀行員の証言では、裁判所は銀行員を信用することは目に見えていた。裁判官は、学歴や肩書きで人物を評価する傾向が強いからだ。 裁判官は、野中さんに対して、そのプロセスをなんら顧みることなく、ただ「株取引で失敗したためにその損失を銀行のせいにしている」という心証を持つに違い無い。 それにそもそも裁判の印紙代だけでも、31億円ということになれば、700万円以上かかる。お金がなければ、裁判は起こせない。ただでさえ多額の負債を負った身には、正義を問うことすらかなわないのである。
なんともやりきれない。。 日本の裁判では、銀行被害者は救済されにくい仕組みになっているんだ。。。。
ここで取り上げた、野中さんの例を皮切りに、
椎名弁護士の扱った様々な ケースが本書は続く。読んでいるのが苦しくなるが、
これは今後も起こりうる事で、忘れてはならない。
椎名弁護士ははっきり書いている
バブル期に大銀行が行ったのは、巧妙に自己責任による選択権を奪う手口だったのだ。
近頃は相続税の変更に伴い、銀行の相続税セミナーや相続税対策と称した
パンフレットが飛び交っている。
本書と同じセオリーでまた被害者が増えそうである。
相続税対策と称して 遊休土地の活用やら保険商品を勧められそうで、
なんだか怖い。。。 警告となる一冊です。